大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和23年(つ)1号 決定

主文

本件抗告を棄却する

理由

抗告人並其の辯護人大庭米三郎の抗告理由は「右抗告申立人ニ對スル戰時逃亡、軍用物損壞、戰時住居侵入、戰時窃盗被告事件ニ付長崎地方裁判所ニ於テ昭和二十二年七月十一日申立人ヲ懲役六年ニ處ストノ決定ヲ爲シタルニヨリ申立人ハ右決定ニ對シ福岡高等裁判所ニ抗告シタルトコロ同裁判所ニ於テ昭和二十二年十一月二十四日本抗告ハ之ヲ棄却スルトノ決定ヲ爲シ該決定謄本ハ同年十一月三十日送達セラレタリ然レドモ申立人ハ該決定ニ對シ不服ニ付即時抗告申立候抑モ昭和二十年一月廿三日軍法會議ハ戰時中ニシテ當時刑罰法令ノ規定最モ重ク從ツテ刑ノ量定不當ニ過重ナリシガ終戰後ハ戰時中ノ過酷ナル刑罰法令ハ廢止セラレ且世相全ク變化シタルニヨリ申立人ハ昭和二十年一月廿四日ヨリ同二十年十月九日迄一年八月十七日間熊本及長崎刑務所ニ於テ服役シ右十月九日執行停止トナリテ出獄シタルモノニシテ相當期間服役シ充分改悛シ居リ候加之ナラズ申立人ハ終戰ノ後執行停止トナリテ出獄シタルヲ以テ既ニ服役期間終了シタルモノト思ヒ其ノ事情ヲ知ラザル妻チエ子當二十一歳ト婚姻シ目下妊娠中ニシテ家族トシテハ父淺吉妻チエ子ノ三人ノミニテ父ハ七十二歳ノ老齡ニテ病氣ノ爲殆ンド臥床シ居リテ無資産ナルヲ以テ申立人一人ニ於テ扶養シ居ル次第ニシテ申立人ガ懲役六年ノ重刑ニ處セラルルニ於テハ服役中父ハ餓死シ懐胎中ノ妻トハ離別スルノ外ナキ悲惨ナル事情ニ有之候間敗戰国及憲法改正並ニ敍上ノ各事情御賢察ノ上第一審ノ決定ヲ御檢討セラレ寛大ナル輕キ御裁判ヲ求ムル爲メ刑事訴訟法第四百六十九條第四號ニヨリ本抗告ニ及ビタル次第ナリ」といふに在る。

然し裁判所法第七條第二號によれば最高裁判所は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十八條の如く法律が特に最高裁判所に抗告を申立てることが出來る旨を定めている抗告に付いてのみ裁判權を有するものである(當裁判所昭和二十二年(つ)第七號同年十二月八日決定参照)。然るに本件抗告は前記應急的措置に関する法律第十八條に規定する場合に該當しないばかりでなく他に本件の抗告を最高裁判所に申立てることを特に定めた規定もないから本件抗告は不適法である。

仍って刑事訴訟法第四百六十六條により主文の如く決定する

本決定は、裁判官全員一致の意見に依るものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山清一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例